筋肉の形成について新たな事実が得られ、より効果的な組織移植法の開発に役立つ可能性が出てきた
どんなに筋肉隆々の人でも、重度の損傷や加齢によって、あるいは病気で臥せったりすれば筋肉量の低下が避けられない。これに対し筋肉をシャーレの中で作って移植することが一つの解決策になると考える研究者は少なくない。現在開発が進んでいる方法は筋肉の元になる「筋芽細胞」と呼ばれる前駆細胞を培養し、これを生体に移植するものである。筋芽細胞は生体内に既にある筋肉に融合して筋繊維細胞の一部となり、筋収縮を担うようになる。
培養によって増やした筋芽細胞は筋肉の補充材料として有望であるが、もし培養によって筋繊維が作れるなら臨床的により望ましい材料になる可能性がある。なぜなら未分化の筋芽細胞には腫瘍形成のリスクがあるのに対し分化後の筋繊維はその恐れがはるかに少ないからである。残念ながら、これまでの筋繊維形成法は満足の行くものではなく、培養した筋芽細胞を分化させることがうまくできていない。「筋芽細胞移植の方が筋繊維移植よりはるかに進んでいます。」と理研中央研究所(和光)の森島信裕専任研究員は言い、「筋繊維移植法の開発が遅れている理由の一つは、培養で作れる筋繊維の形成効率が低いことにあります」と指摘する。
森島専任研究員のチームはこれまでの研究で、筋芽細胞の分化が、タンパク質の折り畳みとプロセシングを担う細胞小器官である小胞体(ER)の機能阻害と関連している可能性を明らかにしている1。今回、研究チームは、「小胞体ストレス」として知られるこのような状態を直接引き起こす薬剤で培養筋芽細胞を処理し、筋肉形成における小胞体ストレスの役割を確かめようとした2。
興味深いことに薬剤で処理された細胞の運命は一通りではなかった。処理細胞の半分近くはアポトーシスという過程によって細胞死を起こしたが、生き残った細胞は良く分化して機能的(収縮能を持つ)筋繊維を形成した(図1)。詳細に調べたところ、「生き残り」細胞では、アポトーシスを阻止することが知られる Bcl-xLというタンパク質が高レベルで発現していた。筋肉組織は恒常的にストレスがかかる組織であることを考えると、観察されたストレスによる細胞死は「脆弱な」細胞を除き、筋繊維形成に加わらないようにする一つの方策なのではないかと森島専任研究員は考えている。もともと同じ筋芽細胞の集団が分化の過程で二つの経路に分かれていく仕組みは謎であり、同専任研究員はこれからこの点を詳しく調べたいと考えている。
しかし、この培養法で機能的な筋繊維が高い効率で得られることは明るい話題であり、研究チームは分化プロセスをさらに詳しく解明し、医療への応用の可能性を見いだそうとしている。「筋芽細胞の分化を促す小胞体ストレスが正常な生体内でどのように生じるのかという疑問を解きたいと思います。また、小胞体ストレスの付加が生体内でも筋繊維形成を促進することを示し、基礎生物学、臨床研究どちらの進歩にも貢献できればと考えています」と森島専任研究員は語っている。
小胞体ストレス処理あり(上)は、ストレス処理のない対照(下)と比べると、筋芽細胞からの筋繊維形成が亢進している。挿入画像(上)は、小胞体ストレス処理によって、筋肉収縮単位(サルコメア)が形成され分化が十分進んだ筋繊維が形成されたことを示す。(RIKEN RESEARCH)
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